使用者は、暴行、脅迫、監禁、その他の精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して、労働を強制してはいけません。
暴行といえば、殴る・蹴るということがすぐに思い浮かぶでしょうが、それだけでなく、水を掛けるなどの行為も含まれます。傷を負わせたり、身体に痛みを与えることが暴行に該当する条件ではありません。暴行とは、刑法208条に規定する暴行を指しています。
脅迫とは、刑法222条に規定する脅迫を指します。労働者に恐怖心を生じさせることを目的にし、労働者本人やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、害を加える旨を告げることが脅迫です。積極的な言動により示す場合に限らず、暗示する程度でも脅迫に該当します。
監禁とは、刑法220条に規定する監禁を指します。一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことで、労働者の身体の自由を拘束することが監禁です。
精神または身体の自由を拘束する手段とは、精神の作用または身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法のこと。
不当とは、強制労働禁止のきまりの目的に照らし、あわせて個々の場合における具体的な諸条件を考慮し、社会通常是認し難い程度を指します。
不当に拘束する手段に該当するもの−長期労働契約(参考
労働契約の期間)、
損害賠償の予定、前借金契約、
強制貯金など
就業規則に社会通念上認められる懲戒罰を定めることは、不当に拘束する手段に該当しません。
強制労働の禁止の違反に対する罰則は、労働基準法の中で、一番重い。1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金。
日本には、暴行・脅迫などにより労働を強制するという封建的悪習が残っていました。しかし、このような強制労働自体を処罰する規定は労働基準法が出来る前は存在しませんでした。暴行や脅迫が、刑法に触れるような場合に処罰できるに過ぎず、しかも、刑法による処罰はほとんど行われなかったというのは実情でした。
憲法18条では、国民の基本的人権として、「何人もいかなる奴隷的拘束を受けないこと」・「犯罪による処罰の場合を除き、意に反する苦役に服せられないこと」を保障しています。
労働基準法5条での強制労働の禁止とは、上記の憲法の趣旨を労働関係について具体化したものです。
労働者の自由の侵害・基本的人権の蹂躙を厳罰により禁止し、残存する封建的悪習を払拭し、労働者の自由意志に基づく労働を保証することを目的としています。
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